みずきの年回

【みずきの年回】

 

本日はみずきによる『終わりの見えない物語』におこし頂き、誠に有難う御座います。 

開演に先立ちまして、お客様に本公演をお楽しみいただくため、いくつかお願いがございます。

 

携帯電話や時計のアラームなど、音や光の出る電子機器は予め電源をお切りいただくようお願い申し上げます。マナーモードでのご使用もご遠慮下さいませ。

 

上演中の録画・録音・撮影は法により固く禁じられているわけでは特にありません。ご遠慮なさってもなさらなくてもご自由にどうぞ。

 

また、出演者に鏡を向ける等の、進行を妨げる行為はご遠慮頂くようお願い申し上げます。

 

以上の事をお守りになられないお客様には、ご退場いただく場合がございます。

 

公演予定時間は約5時間と予定しております。途中、休憩は御座いませんのでご注意ください。

 

それでは、まもなく開演いたします。

最後までどうぞごゆっくりとお楽しみください。

 

 

 

 

ほら、これを読んでいるそこの貴方。

公演中は携帯電話の電源をお切り下さい、と申し上げたでしょう?

早くその手に持っている携帯電話の電源をお切り下さい。

わかりましたか?

 

では、始まりますよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーKEEP OUTー

ーKEEP OUTー

ーKEEP OUTー

ーKEEP OUTー

ーKEEP OUTー

ーKEEP OUTー

ーKEEP OUTー

ーKEEP OUTー

ーKEEP OUTー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー花は

  はなは

 花は咲く

 

いつか 生まれる君(21〜)に

 

花は

はなは

花は咲く

 

私(20)は

何を

遺しただろう?

ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

A「ふふ、今年もついに年末かあ…」

 

A「また今回もここで皆と一緒に年を越すんだよね、楽しみだなあ…」

 

A「えーと、322号室は…ここだね」

 

A「この部屋ももう毎度お馴染みだね。

この扉を開けたら、いつもの2人がいて、私を迎えてくれる。

私と一緒に過ごしてくれる。

私と楽しくお喋りしてくれる。

そうして暫くすると、他の4人もやってきて、

みんなで楽しく年を越すんだ。

今年も変わらずそれが始まる。変わらないことはすばらしい。なんてすばらしきこのせかい

それじゃあお邪魔しますかね」

 

コンコン ガチャ

 

A「こんばんはー!皆さん、いますかー?」

 

シーン

 

A「あれ?誰もいない…」

 

A「ちょっと早く来すぎたかね?」

 

A「………」

 

A「…ダレモイナイ…モサモサスルナラ イマノウチ」

 

A「あ ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるう」

 

A「それ るるいえ うがふなぐる ふたぐん」

 

A「Ia! Ia! Cthulhu fhtagn!」

 

S「アイエエエ!?モッサリ!?モッサリナンデ!?」

 

A「あれ!?いたの!?いつの間に背後に!?」

 

S「SANチェックに失敗。名状しがたい踊り<Sanity dance>を見てしまった私は1D10のSAN値を減らさなければならない。…げ、9も減らすのか…続いて<アイデア>ロール。…こちらも失敗。一時的狂気には陥らずに済んだ」

 

A「本当にごめんね…で、いつから背後に?」

 

S「『ふふ、今年もついに年末かあ…』の辺りから」

 

A「まことか!?忘れて下さい、まじで」

 

S「無 理 で す 。コンピュータ様ではないのでそう簡単に覚えた事を忘れられません」

 

A「ぬー、まあ仕方ない。ところで他の皆は?」

 

S「わからないのですよねー、私も貴方の背後を尾行して今来たところですし」

 

A「そうですか…」

 

S「おや?テーブルの上に何やら名状しがたい置き手紙のようなものがありますよ」

 

A「ほほう、どれどれ」

 

ーーー

 この部屋に来てしまった人達へ

 

 今まで、ここ、北緯36度59分1秒、東経138度49分13秒、標高296m付近のこの部屋を年越しの場としてきましたが、大人の事情により、この部屋を年越しの場として使用することは出来なくなりました。

 今年より、年越しの場は、北緯35度45分6秒、東経139度45分27秒、標高-4m付近になります。急いで向かってください。

 

親愛なる貴方の最高の友人、コンピュータ様より

ーーー

 

A「……」

 

S「……」

 

A「えっ」

 

A「どういうこと?」

 

A「意味がわかんないんだけど」

 

A「え?え?え?え?え?え?え?え?え?」

 

A「理解ができない」

 

S「…つまり、私達は急いでここを離れて、東京に向かわなければならないということです!行きますよ!」

 

A「えっ、ちょっと、意味が…」

 

S「今は…19時56分!0時になるまでにあちらに着かなければならない!時間がない、早く!行くよ!」ガチャッ

 

A「ああっ!待って!待ってよ!鍵とか閉めてかないでいいの!?」

 

バタン ガチャッ

 

 

 

Escape from the dreaming!

 

 

 

  *

 

ーーー都内某所にてーーー

 

R「市民、幸福は義務です。幸福なのは、義務なんです。幸せですか?義務ですよ?果たしてますか?」

 

H「はい!コンピュータ様!私は幸福です!疑い様もなく!」

 

C「2500年の演習を続けて来た武門の家柄は、寄せ集めの軍とは違うのだ!」

 

B「理解ができない。何の話してんの?」

 

R「おや?市民DEVELOPINGは幸福でないようですね。SSMの兆候が見られます。これは幸福薬の投与が必要ですね。Happiness Officer、お願いします」

 

H「はいはーい、お注射しましょうねー。

ちょっとくすぐったいですよ。何、痛みは一瞬です」

 

B「何だその怪しい注射器は!おい!刺すな!やめろ!やめろ!」

 

H「でも、幸福は義務だし…(´・ω・`)

 

B「幸福だから!幸福だから!幸福だなあ〜あ〜っはっはっはっはっ!」

 

H「そうですか…(´・ω・`)

 

C「2500年の演習を続けて来た武門の家柄は、寄せ集めの軍とは違うのだ!」

 

R「うむ、幸福そうで何よりです。

時に市民、ここに居ない2人、即ち市民MEASUREと市民IDEALはどうやら、前回までと同じ所へ行ってしまったようです。今頃私の書いた名状しがたい置き手紙のようなものを読み、急いでこちらに向かっていることでしょう」

 

H「正しい行き先に来ないなんて、完璧な市民にあるまじき行いです!きっと下劣な反逆者の手先に違いありません!次会ったら略式の処刑ですね!」

 

B「いやいや、事前連絡も無しにこっちに来いって方が無理があるでしょ。俺だってさっき、その…コンピュータ様?に偶然会わなかったらあっちに行ってたよ」

 

C「2500年の演習を続けて来た武門の家柄は、寄せ集めの軍とは違うのだ!」

 

R「まあ、処刑するかは後で考えるとして、とりあえず2人が来るまでのんびりまったり過ごしましょうか。

3*3の升目に○とXを交互に書いて縦か横か斜めに一列揃えるあれでもする?」

 

B「いや!やめよう!あれはつまらない!」

 

R「じゃあしりとりは?」

 

B「それもだめだ!」

 

 

A「はぁ…はぁ…ちょっと…速い…」

 

S「あっ!!」ピタッ

 

A「きゃん!」ドガッ

 

A「急に止まるな!後方不注意だぞ!」

 

S「勢いで飛び出したのは良かったけど、具体的にどうすればいいか考えてなかった」

 

A「勢いで飛び出したのもあまり良くなかったけどね。無計画に行動するなんていけないですよ?」

 

S「そうですね。私としたことが少し取り乱してしまったようです」

 

A「でも、本当にどうすればいいんだろう?いつもDeity-sized portalsでここまで来てたから、私達、この辺の土地勘ぜんぜん無いよね」

 

S「ふっふっふ、案ずることはない。私は今回、文明の利器、現代科学の粋を集めた、全人類の技術の結晶を持っているのだ」

 

A「お?何だ?」

 

S「それこそがこれ!これこそがそれ!その名も『スマートフォン』!!」

 

A「おおおー!何それ!」

 

S「これは私の新しい携帯電話さ。今までの前近代的な携帯電話とは違って、いろいろ便利な機能が備わっているのだよ」

 

A「へー!最近の携帯電話ってこんな形してるんだー」

 

S「早速、これで東京までの行き方を検索してみよう!」

 

A「わーい!やんややんや!!」

 

S「ふむふむ…なるほど」

 

S「ここから一番近い駅はJR石打駅。そこを21時07分に発車するJR上越線越後中里行きに乗ると、次の越後湯沢駅に21時14分に着くから、乗り換えて、21時39分に発車するMaxたにがわ430号にのれば、22時42分に大宮駅に着く。そのあとJR高崎線に乗れば、23時12分に尾久駅に着けるって寸法さ」

 

A「おおおー!すげー!さすがスマートフォン!」

 

S「さらに、ここから石打駅までの道のりも、Google Mapを使えば迷わず行けるぞ!」

 

A「すごいすごい!さすがスーパーコンピュータ!」

 

S「さ、早く行かないと21時07分に石打駅に間に合わない。その電車を逃したら次は一時間後だから逃すわけには行かないよ!今は…20時03分だからあと一時間くらい。ここから石打駅までは約3kmみたいだね、Google Mapによれば」

 

A「じゃあ急がないとね!さあ早く!行くよ!」

 

S「さっきまで辛そうにしてたくせに」

 

 

R「硫酸」

 

B「ンゴロンゴロ山」

 

R「マンション」

 

B「ンガウンデレ」

 

R「レントゲン」

 

B「ングニ諸族」

 

R「クエン酸

 

B「ンサワム」

 

R「むーん」

 

B「ンジャジジャ島」

 

R「うーん」

 

B「ンザイパン国立公園

 

R「ン・ガイ」

 

B「……」

 

R「?」

 

B「あー!結局しりとりをしてしまった!絶対にしまいと心に決めていたのに!」

 

R「別に良いじゃない、減るもんでもないし」

 

B「つまらない!つまらなすぎる!つまらなすぎて死ぬ!死んでしまう!」

 

H「あれ?幸福じゃないの?(((o(*゚▽゚*)o)))お薬かな?お薬かな?」

 

B「いや!幸福だよ!実に!でも他の遊びの方がいいかな〜!」

 

H「そうですか…(´・ω・`)

 

C「2500年の演習を続けて来た武門の家柄は、寄せ集めの軍とは違うのだ!」

 

R「ほう?他の遊びがしたいと?じゃあ3*3の升目に○とXを交互に書いて縦か横か斜めに一列揃えるあれをやるしかないかな!」

 

B「やらんぞ!絶対にやらんぞ!今度こそ!」

 

 

A「……」タッタッタッ

 

S「……」タッタッタッ

 

A「いやー、夜の街を走るのは気持ちがいいねぇ!君もそう思わないかね?」

 

S「喋ると体力使うよ。走るのに集中したまえ」

 

A「はーい…」

 

S「……」タッタッタッ

 

A「……」タッタッタッ

 

S「あっ!!」ピタッ

 

A「ひゃん!」ドベッ

 

A「急に止まるな!後方不注意だぞ!リターンズ!」

 

S「そういえば交通費のこと全然考えてなかった!今お金いくら持ってる?」

 

A「無一文の着の身着のままですけど」

 

S「貴様ーーー!」

 

A「てへぺろ♪」

 

S「私は運良く一万円札を一枚だけ持っていたが…Yahoo!路線情報によると運賃は6260円。二人で12520円!足りないじゃん!どうすんのさ!」

 

A「…確かに」

 

S「まずいよこれは!頑張って越後湯沢駅まで徒歩で行ったって上越新幹線で10000オーバーは確実だし、新幹線を使わないで行ったら今日中には絶対に辿り着けない!万事休す!あああああああああ!」

 

A「…あー……でも」

 

S「あさみやらはさあたまゆなかさらやまにかたまやら」

 

A「ねえ、ちょっと……あの、あの」くいくい

 

S「かはやまらやまたあ……何でしょう?」

 

A「私の運賃は半額で大丈夫だよ?

だから私の分は3130円で、貴方の分の6260円と合わせても9390円だから、10000円にちゃんと収まるよ」

 

S「…ああ…そういえばそうだったね。なら大丈夫か」

 

A「すごいでしょう!感謝しなさい!えっへん!」

 

S「あくまで、お金を持っているのは私であり、貴方は無一文の着の身着のままである、ということを忘れないで欲しい!」

 

A「はいはい。ゴメンネ!」

 

A「あ、もし良ければ私が荷物になろうか?それなら私の運賃は全くかからないよね!なんならペット扱いでもいいよ?」

 

S「馬鹿なこと言ってないで、先を急ぎますよ」

 

A「はーい…」

 

S「……」タッタッタッ

 

A「……」タッタッタッ

 

S「あっ!!」ピタッ

 

A「にゃん!」ドフッ

 

A「後方不注意だと!何度!言えば!」

 

S「貴方がいっつもいっつも私の真後ろを走ってるのが悪いと思う!」

 

A「Exactly.それで、今度は何?」

 

S「いや、今の時刻と駅までの距離を鑑みるに、もう走らなくて大丈夫かなと」

 

A「ハッピー!実は走るのしんどかったんですよ」

 

S「そ、そうでしたか」

 

A「じゃあ、ゆっくり歩いて行こうか。今度はお喋りもしながら、ね!」

 

S「そうですね」

 

 

R「じゃあ私から始めるよー」

 

 | |

ー+ー+ー

 |○|

ー+ー+ー

 | |

 

R「はいどうぞ」

 

B「どうも」

 

 | |

ー+ー+ー

 |○|X

ー+ー+ー

 | |

 

B「じゃあこれで」

 

R「うーん」

 

 | |

ー+ー+ー

 |○|X

ー+ー+ー

 |○|

 

R「じゃあここで」

 

B「どうしようかなー」

 

 | |X

ー+ー+ー

 |○|X

ー+ー+ー

 |○|

 

B「ここで行きましょう」

 

R「なかなかやりますね」

 

○| |X

ー+ー+ー

 |○|X

ー+ー+ー

 |○|

 

R「これでどうかな?」

 

B「くっ、もしかしてミスったか?」

 

○|X|X

ー+ー+ー

 |○|X

ー+ー+ー

 |○|

 

B「ここにしよう…」

 

R「ふん、無駄な悪あがきはよしたまえ。見苦しいぞ?」

 

○|X|X

ー+ー+ー

 |○|X

ー+ー+ー

○|○|

 

R「ふははははは、よもや我の勝利は目前だ!2年弱前の雪辱を果たす時は近い!」

 

B「くっ…!どうしたらいい?

圧倒的不利なこの状況…この状況を打開するための一手…!」

 

R「無駄だよ無駄!よもや貴様に明日など存在しない!大人しくやられるがいいさ!ヒャヒャヒャヒャ!」

 

R「唱えなっ!念仏!」

 

B「ぐっ…! ぐっ…!」

 

 ざわ・・・

       ざわ・・・

 

B「…!」

 

B「見えたァッ!水の一滴!」

 

○|X|X

ー+ー+ー

 |○|X

ー+ー+ー

○|○|X

 

一 列 成 立

 

B「やった…!」

 

完 全 勝 利 !!

 

R「な…なんだとおッ!」

 

R「おおおヲヲおおおおおおヲヲヲおお

おヲヲヲおおおヲヲヲヲヲおおおお

マタシテモ‥‥ワガハイニ‥‥

‥‥タテツクトハ‥‥‥‥」

 

B「やはり‥‥あなたが‥‥!」

 

R「‥‥親子そろって‥‥

目ざわりなヤツらだ‥‥

‥‥この手で葬ってやるうぅぅ‥‥

死刑台に送ってやるぞおぉぉ‥‥」ガンガンガンガン

 

B「……はい」

 

R「はい」

 

B「茶番お疲れ様でした」

 

R「お疲れ様でした」

 

B「……」

 

R「?」

 

B「あああー!またもややってしまった!今度こそ絶対にしまいと再び心に決めていたのに!」

 

R「別に良いじゃない、減るもんじゃないし」

 

B「つまらない!つまらなすぎる!つまらなすぎて死ぬ!死んでしまう!」

 

C「2500年の演習を続けて来た武門の家柄は、寄せ集めの軍とは違うのだ!」

 

B「あああああああああーー何故だーー何故またやってしまったんだーー」

 

H「……」

 

H「……♪」

 

B「一体何故!?ナンデ!?あれほど固く心に誓ったのに!」

 

H「……♪」デンデンデンデン

 

B「何故やってしまったんだ!そうか!月だ!月のせいだ!」

 

H「……♪」デンデンデンデン

 

B「月から大量に満月光線がビシビシと降り注ぎ、精神を狂わせてしまったのだ!なんということだーーー!!」

 

H「えいっ♪」プスッ

 

B「ほへ」

 

H「幸福ではなさそうでしたので、お注射しておきました!」

 

R「あー…ついにやったか…」

 

H「え?」

 

C「2500年の演習を続けて来た武門の家柄は、寄せ集めの軍とは違うのだ!」

 

B「こ……」

 

H「こ?」

 

R「ろじー?」

 

B「幸福ですぅぅぅぅぅ!」

 

H「うわっ」

 

B「幸福です!幸福です!」

 

H「……」(こ、こんなに効くんだ…)

 

B「幸福です幸福です幸福です!」

 

R「このクローンはもう駄目ですねー」

 

C「2500年の演習を続けて来た武門の家柄は、寄せ集めの軍とは違うのだ!」

 

H「ど、どういう事ですか?」

 

R「いや、幸福薬はあくまで場を盛り上げる為の小道具として用意したのだけど、まさか本当に使われるとは思わなかった」

 

H「そ、そうだったのですか」

 

R「あまりに貴方が楽しそうにしてたので、水は差さないことにしてたけど」

 

H「そうでしたか…ごめんなさい」

 

R「いや、まあ、あっちが幸福そうにしてないのが大体悪いのだし、気にすることはないよ」

 

B「幸福です幸福です、幸福です!」

 

C「2500年の演習を続けて来た武門の家柄は、寄せ集めの軍とは違うのだ!」

 

 

S「お、駅が見えて来たよ」

 

A「時間は?」

 

S「21時丁度だね、大丈夫だ」

 

A「じゃあ早速乗るよ!切符買うの頑張って下さい、お願いします」

 

S「わかったよ…ちょっと待っててね」

 

A「………」

 

S「おまたし」

 

A「早くない?」

 

S「新幹線の切符は越後湯沢で買うからね」

 

A「そうか」

 

S「そうだ」

 

A「ところでここに飾ってある蜂の巣はなんなんだろう…」

 

S「…………確か……昔この駅に発生した蜂の巣を駆除した時に、それを飾った……んじゃなかったかな……」

 

A「え?知ってるの?」

 

S「うん…なんか、すごく昔にここに来たことがある…ような気がする」

 

A「?そうなんだ…まあいいや、早くホームに行こう」

 

ガーーー プシュー

 

S「電車だ。乗ろう」

 

A「そうだね」

 

バタン

 

S「これに乗って7分待つと越後湯沢だよ」

 

A「短いね」

 

S「一駅だしね。でも歩いたら2時間くらいかかる距離だよ」

 

A「電車ってすごいね…」

 

S「でも、昔、上野駅から尾久駅に行こうとした時に、『一駅だから徒歩でも余裕でしょー』と思って徒歩で行こうとしたら酷い目にあったよ。かれこれ三時間くらい歩いたんじゃなかろうか。当時はスマートフォンとか持ってなかったしね」

 

A「一駅と言っても舐めちゃいけないという事だね…」

 

S「そういう事です。あ、そんな事話してる間に越後湯沢だよ。降りよう」

 

A「案外早かったね」

 

S「やっぱ電車はすごいよ。じゃ、新幹線の切符買って来るから待ってて」

 

A「はーい」

 

S「お待たせ」

 

A「早いね」

 

S「そう?普通だったよ。というか切符買うのにそんなに時間かけてもしょうがないじゃん」

 

A「まあ、そうか」

 

S「じゃあ乗ろうか。11番線だね」

 

A「ほーい」

 

S「今は21時17分。発車は21時39分だから、まだ発車まで時間があるね」

 

A「そういえばこの新幹線はこの駅が始発なんだね」

 

S「そうだね。20分ほどのんびりまったり待っていようか」

 

A「………」

 

S「………」

 

A「…そ、そういえばさ」

 

S「ん?なんだい」

 

A「携帯電話新しくしたんだよね」

 

S「ああ、その話ね」

 

A「前の携帯電話はどうしたの?」

 

S「家で充電器に繋いだまま安置してあるよ。なんか充電器外すとすぐに電池無くなっちゃうんだよねぇ」

 

A「そ、そっか。それにしても貴方が携帯電話を新しくするなんてね」

 

S「うん。はじめは使い慣れた携帯電話を手放す事に抵抗があったんだけど、新しいのを使い始めたらあまりに便利すぎて抵抗は吹き飛びました」

 

A「そうか」

 

S「そうだ」

 

A「………そうか、そうだよね。貴方もなんだかんだ言ってもクローンナンバー20だもんね。次に来るのは21だもんね。携帯電話も新しくなるよね。」

 

S「そういえば私と貴方のクローンナンバーって約一年前に盛大に一つ数え間違えられてたよね」

 

A「それは貴方自身でも気付いてなかったじゃないですか」

 

S「ははは、まあそうなんだけど」

 

A「まあ、私自身も気付いてなかったんですけどね」

 

S「ははは」

 

A「ははは」

 

A「………」

 

S「………」

 

S(こやつが自分からこんな話をするなんて…ちょっと変だね。どうかしたのかな?まあ、どうかしてるんだろうけど)

 

 

B「幸福です!幸福です幸福です幸福です、幸福です?」

 

C「2500年の演習を続けて来た武門の家柄は、寄せ集めの軍とは違うのだ!」

 

B「幸福ですうううぅぅぅ!幸福です幸福です、幸福です!幸福です!幸福です!」

 

C「2500年の演習を続けて来た武門の家柄は、寄せ集めの軍とは違うのだ!」

 

B「幸福です、幸福です!幸福です幸福です幸福です幸福です幸福です!幸福です幸福ですうううううぅぅぅぅ!」

 

R「うーむ、これが俗に言う幸福語というものか…」

 

B「幸福です?幸福です!幸福です幸福です幸福です幸福です、幸福ですううぅぅぅ幸福です幸福です!幸福です、幸福です、幸福幸福幸福幸福幸福幸福幸福幸福幸福です!」

 

C「2500年の演習を続けて来た武門の家柄は、寄せ集めの軍とは違うのだ!」

 

B「幸福です!」

 

H「あの二人、なんだか楽しそうですね…」

 

R「ちょっと、混沌とした様相を呈しているね…」

 

H「あうぅ…」

 

R「うーん、まともに話せるのが私達しかいない。ちょっと暇つぶしの手段がなくなってしまったなあ…」

 

H「あ、あの」

 

R「ん?なんだい」

 

H「もし、暇でしたら、『昔のこと』を話していただけませんか?」

 

R「『昔のこと』?」

 

H「はい。私がこの集まりに来る前にあったこと、はじめて皆が出会う前のこと、出会ってからのこと。私しか話し相手がいないのなら、私はそんな話が聴きたいです」

 

R「なるほどね、貴方は新入りだから、他の人達の会話を遮って、自分の言いたいことを言う勇気はなかった訳だ。

だから(実質)2人しかいない今、それを切り出したと。そういう訳だね?」

 

H「まあ、多分、そういう訳です。と言う訳で、お願いできますか?」

 

R「まあ、暇だし、まだ二時間くらい時間があるし、

良いでしょう。

教えてあげます。

みんなが気になっていること、

疑問に思ってること、

全部、

教えてあげます。

この集まりの皆に何があったのか、ほとんど全部、最初から。

始まりの物語を、聞かせてあげましょう」

 

 

S「……21時36分41秒……」

 

A「何空を見ながら呟いてんの?気持ち悪いよ」

 

S「それね」

 

A「別に私達はオカルトサークルの墓荒しの2人組じゃないんだから、そんなこと言わなくてもいいんだよ」

 

S「それね」

 

A「………」

 

S「………」

 

A「………」

 

S「21時39分ジャスト!」

 

テケリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ

 

A「発車ベルだ…」

 

S「ドアが閉まるよ!」

 

バタン

 

A「列車が動き出すね…」

 

ゴーーー

 

 

▼ぼうけんの はじまりだ

 

 

A「…この新幹線にはどのくらい乗ってるの?」

 

S「22:42までかな。一時間ちょいあるね」

 

A「そっか…」

 

S「………」

 

A「………な、なんか、出発してからずっとトンネルの中だね?」

 

S「別に車窓にバーチャル映像が映ったりはしないよ?」

 

A「それはそうだけど…」

 

S「このトンネルは大清水トンネル新潟県群馬県の県境に位置する、全長22.221kmのトンネルだよ。大沈みトンネルじゃないよ。1979年の開通当時はスイス国鉄のシンプロントンネルを抜いて世界一の長さのトンネルだった。その後は1983年の青函トンネル開通まで、山岳用トンネルとしては2000年の東北新幹線岩手一戸トンネル開通まで世界一の長さだったよ」

 

A「へー、よく知ってるね」

 

S「まあ、今wikipediaで調べたんだけどね」

 

A「ずこー」

 

S「wikipediaは偉大だね」

 

A「だねー」

 

S「ついでに、それを見られるスマートフォンも偉大だね」

 

A「ああ…」

 

S「………」

 

A「………」

 

A「ねえ、今までいろいろな事があったよね」

 

S「そ、そうだけど。どうしたの突然」

 

A「ねえ、ちょっとさ。『昔の話』をしてみない?」

 

S「『昔の話』?」

 

A「そう。

私達が今までに辿った軌跡。

終わりの見えない物語。

一番最初の時に始まり、

やがて永遠になる物語。

一時間も時間があるのなら、貴方と一緒に、そういう話を、私はしたいな」

 

S「………そんな話しちゃって良いんですか?貴方自身が一番忌避してた話じゃないですか」

 

A「大丈夫。だってここは三国山脈の下を貫く、全長22.221kmの巨大トンネルの中だよ?ここでどんな叛逆的な話をしたって、お天道様には聞こえやしないよ」

 

S「そう…なら良いんじゃない?」

 

S(やっぱり変だ。あれだけ忌避していた昔の話を、自分からしようとするなんて…)

 

S(まあ、こやつにも思う所があるのだろう。付き合ってあげるとしようか)

 

A「じゃあ、始めようか。

見しにもあらず聞きしにもあらず、

いにしえの儚き物語、

あだなる筆の跡に御心を乱されける、

夢のようなあのお話を…」

 

 

 

ーーー

 

《あたり日記〜理想的になっちゃう話〜》

 

 

〜つづく〜

 

続きはこちら:あたり日記:2005年11月21日 - folicのブログ