あたり日記:2005年11月21日
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《あたり日記〜理想的になっちゃう話〜》
【2005年11月21日(月)】
??「う〜〜、チコクチコク」
今、校門を求めて全力疾走している私は小学校に通うごく一般的な小学四年生。強いて違うところをあげるとすれば『さとうとやくみ』でも『こいぬのしっぽ』でもないってことかナー
名前は 当 美月 (あたり みづき) 。
そんな訳で私の通う小学校である、「西尾久小学校」の校門にやって来たのだ。
*
美月「ちこくちこくー
急がなくっちゃ急がなくっちゃ」
ペロリン
先生「もーっ美月さん!遅刻はだめです!0点です!
今度から気をつけてくださいね
やいのやいのやいのやいのやいのやいの」プンプン
美月「ごめんなさ〜い」
やいのやいの言っちゃって
先生は知らないの
私がトイレに行ってたってね!
*
先生「266年には邪馬台国の台与が晋に遣使…」
私日本史嫌い
覚えることいっぱいで分んないもん
先生「コラッ落書きしないの!」ボス
HAHAHAHAH
先生「プンプン」
美月「えへへー…」
*
私の友達を紹介します
けーじはとても頭がいいです
学業も私より遥かに優秀だし、
背も高いし、
スポーツも大体よくできるし、
見た目も結構かっこいいし、
実は結構すごい奴です
西春「お前何授業中に落書きしてんだよ…」
美月「だって日本史つまんないんだもん。過去の事件なんて興味ないよーだ」
西春「いや、過去の事を学ぶのも大切なことだと思うぞ?」
美月「私はそうは思わないね。過去のことに囚われてるから前進出来ないんだ」
西春「そうかな…」
二宮 西春 (にのみや にしはる) 君は私の同級生で、物心ついた時からの友人です。所謂幼馴染という奴です。家も近くて、互いの家族もなかなかの親交があります。
私は西春くんを「けーじ」って呼んでますが、いつからそう呼ぶようになったか、どうしてそう呼ぶようになったかは覚えていません。
本名とは全然関係ない呼びかたですけど、珍しくはないと思います。私の同級生には、苗字は「澤田」だけど「山下」と呼ばれている人もいます。
西春「ところでお前は一体何を落書きしていたんだ?」
美月「そうだ!暗号を考えついたんだよ。ちょっと解いてみてよ!」
西春「え?」
美月「これ!」
私はさっきの授業中に書いていた紙をけーじに見せてみた。
ーーー
48拗-4-11-19-7-10-144-7-0-80゛拗-4-22゛-7゛-240
2-19-促-56-12-136-56-208-2-2-0-7゛-240
ーーー
西春「………」
美月「どう?どう?」
…ちょっと考えてるみたい。解いてくれるかな?
西春「………………………んー?わからんなあ」
美月「そっかあ」
うーん、わからないかぁ。
西春「まあ考えとくよ」
美月「そっか。がんばってね!」
まあ、暫く考えてくれればきっと解いてくれるよね。
*
〜昼休み〜
美月「けーじ!ねーねー、わかった?わかった?」
西春「ん?いや〜、全然わからんな」
美月「そっか〜。う〜ん……」
美月「じゃあ、じゃあ、ヒントをあげよう!」
西春「あ、ああ。いいよ」
美月「この暗号は一つの整数で一つのひらがなをあらわしているよ。」
西春「ほう」
美月「そして、その手の暗号は大体母音と子音の組み合わせで出来てる。アイウエオの5つの母音と、アカサタナハマヤラワの10の子音だね。それらの組み合わせでこれらの整数が出来てるんだよ」
西春「あ、ああ?ああ」
美月「じゃあ、そこらへんを踏まえて。がんばってね!」
西春「お、おう、そうだな…」
*
〜放課後〜
美月「け〜じ〜、わかったー?」
そろそろ解いてくれないと困りますよ?
西春「いや、わからん」
美月「そっか…じゃあ、一緒に…」
西春「ごめん、今日はこの後用事があるんだ。じゃあな!」
美月「えっ…あっ…ああ…」
美月「…行っちゃった」
*
〜帰り道にて〜
美月「なんだもー…冷たいなぁ」
美月「まぁ…あの暗号が解けないのは仕方ないけど…」
美月「今日ぐらい一緒に帰ってくれても良いのにさ…」
美月「ああ…今日は用事があったんだっけ? ならそれも仕方ないか…」
美月「…一緒にお喋りしながら、ゆっくり歩いて帰りたかったなあ…」
美月「…もう家に着いちゃった」
美月「ただいまー…」
美月「………」
美月「…おかえりー」
美月「はぁ。パパもママもいないのかあ」
美月「妹の柚樹はまだ保育園だろうし…」
美月「…テーブルの上に置き手紙のようなものがある」
美月「『用事で出かけています。夕飯までには帰ってくるので、待ってて下さい。ママより』…」
美月「…みんないないのね。今日はみんなうちにいると思ったんだけど…」
美月「…私の部屋に行こうっと」
美月「……今日はもう疲れちゃったからベッドで寝てよう」
美月「……」ボフー
美月「……」
美月『|v|\|/ |31|2+#|)4¥』
美月(なんで?なんでみんな…)
美月(もしかして忘れちゃったの?)
美月『[()^/6|z^-|-(_)|_/\”|”3』
美月(もしかしても何も…そうとしか考えられない。みんな忘れちゃったんだ)
美月『Re;memberRe;memberRe;memberRe;memberRe;memberRe;memberRe;memberRe;memberRe;member』
美月(どうして?どうして忘れちゃったの?)
美月(みんな私のことが嫌いになっちゃったの?)
美月『HATE↗︎HATE↘︎↓』
美月(というか最初から私のことなんか嫌いだったの?)
美月(そうだもんね。私なんか、どんくさいし、どじばっかり。足もおそいし、スポーツもできないし、テストの点だって良くない。ぐずぐずして、みんなに迷惑をかけてばっかり。けーじとこんな私なんて一緒にいても釣り合わないよ。私はけーじみたいに、みんなと会話してて場を盛り上げるとか出来ないし。パパとママだって、私と一緒にいても楽しくないだろうな。いつも私をしかってばっかりで、ほめてくれる事なんてほとんどない。そんなにほめるところがないの?そんなに私にはいいところがないの?私なんて必要ないの?いなくていいの?そうだよね私がいなくなったってみんな困らないよね。私が死んだってみんな平気で生活を続けるんだ。パパやママなんてきっと喜ぶだろうな、養育費も面倒も治療費もかかる私がいなくなって。ママがいっつも言ってるもん、私の養育費がかさんで苦しいって。柚樹だっているし、きっと三人で幸せに生活できるよ。誰も私なんか必要じゃないんだ。私はいない方がいいんだ。私は今すぐに死ぬべきなんだ。誰も私が好きじゃないよ、みんな私がいなくていいって必要ないって
)ピンポーン
美月「……」
ピンポーン
美月「…誰?」
西春「おーい!美月ー!いるんだろ!?出てこい!」
美月「…けーじ!?」
私は部屋の窓を開けて道を見下ろす。
美月「けーじ!どうしたの!?」
西春「美月!早く降りて来い!行くぞ!」
美月「ええ!?どこに!?なんで!?」
西春「いいから!早く!先に行ってるぞ!」
そう言うとけーじは突然走りだしちゃった!
美月「えっ!?ちょっと!待ってよ!」
急いでパーカーを着て、階段を駆け降りて、玄関を押し開けて、素早く鍵を閉めて、けーじの後を追って行く。
けーじは私の前を走りながら、時々こちらを振り返っている。私がちゃんとついて来てるか見て加減してくれてるんだろう。けーじは50mを7秒台で走れるくらい足が早いし、それに比べて私は13秒以上かかるから、本気で競走なんかしたら絶対に追いつけないだろうなあ。相当加減してくれてるんだと思う。
私はけーじを見失わないように必死にけーじの後を追いかける。こっちは隅田川の方…かな…
〜隅田川土手〜
船方神社の境内を駆け抜けて、神社横の公園のアスレチックを通り抜ける。けーじはすいすいとアスレチックを通り抜けられるけど、私はだいぶ手間取った。アスレチックを抜けたところで、けーじは立ち止まってこっちに手を振った。
美月「はぁ…はぁ…ちょっと…」
西春「全く、ちょっとは運動しないと健康にも良くないぜ?」
美月「そ…それより!いきなりこんなところに…いったいどういうわけ?」
西春「まあまあ。いいから着いて来なよ」
美月「今日は…用事があったんじゃないの?学校終わったら急いでどっかに行ったよね?」
西春「ああ…まあそうなんだが。その事はごめんな、一緒に帰ってやれなくて」
美月「…用事は?大事な用事があったんじゃないの?こんなところで私と話してて、私に構ってていいの?」
西春「いいのいいの。いいから早く行くぞ、そこでみんなが」
美月「良くないよ‼︎そんな、大事な用事も放り出して、私なんかと、こんなところで、話してたらいけないよ!こんな、私なんかに構ってたら、けーじは、困ることになるよ!私なんかほっといて、けーじは、自分の、仕事を、」
西春「あー。面倒な奴だな。いいから早く行くぞ」
美月「あっ、ちょっと!」
けーじは私の左腕を掴むと、土手の方へ引っ張って行った。
美月「ちょっと!何するの!何処へ行くの!」
西春「みんなを待たせてるんだからあんまり時間を取られるわけにはいかないんでね」
美月「わかった!わかったから!引っ張んないで!」
みんな?みんなって誰だろう?
西春「ほら、着いたぞ。挨拶しな」
美月「……!?」
私の、パパと、ママと、柚樹と、それから、けーじのお父さんと、お母さんがいた。桜の木の下にシートを敷いて、料理を並べて、これから花見でもするみたいな…。今は11月だから花なんか咲いてないのに。
どういうこと?
美月の母「…せーの」
皆「「Happy Birthday!!」」
美月「……え?」
美月の母「今日は美月の10歳の誕生日でしょ?初めて二桁になる歳だし、いつもと違う感じにしようと思って、お外でお料理を食べることにしたの」
西春の父「頑張って準備したんだぞう」
西春の母「あなた何もしてないじゃない」
西春の父「そうだったっけ」
西春「お前、自分の誕生日が忘れられてたと思ってただろう。あれだ。よくあるやつだ。
『驚かせようと思って黙ってました。ごめんね!』
っていう、あれ」
美月「……えっ」
美月の母「…さあさ、早くご飯食べちゃいましょう。
美月、お誕生日おめでとう」
柚樹「…おめでとう」
美月の父「おめでとう」
西春の父「おめでとー」
西春の母「お誕生日おめでと」
西春「誕生日おめでとう。」
美月「……そんな」
西春「暗くなる前に準備しなきゃいけなかったし、学校が終わったら急いで準備の手伝いしなきゃいけなかったから一緒に帰れなかったんだよ、ごめんな。暗号も解いてやれなくてごめんな、色々と忙しくて余裕が無くてな。また落ち着いたら考えてやるよ」
美月「……そう……なの……」
美月「……そう…」
美月「…みんな…」
美月「…ありがとう……ね」
西春「どう致しまして」
……ああ。
幸せだなあ。
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A「…っていう話だったの。結局、私は無駄に落ち込んだだけだったってわけ。フィクションでは良くある話だよね、良くありすぎて現実では珍しいくらい」
S「…まあ、そうだよね、ちょっとベタだわ」
A「まあ、結局けーじはあの暗号は解いてくれなかったんだけどね。結構考えてくれたみたいなんだけど、わからなかったみたい。そんなに難しくないと思うんだけどなー。」
S「うーん。何かね?やっぱこういう発想がないとわかってくれないのかね」
A「さあ、どうなんだろうねえ。一般の人の考えることはわからないや。
それにしても、あの頃は本当に幸せだったなあ。あの時のまま、ずっと過ごせたら、本当に良かったのだけど」
S「……」
A「…………」
S「……」
A「………さ、じゃあ続けようか。これじゃあただの私の昔話、自慢話だからね、みんなとの出会いの話に進もうか」
S「……ああ、そうだね」
S(…笑ってるけど、辛そうだなあ。よく見ると目が少しうるんでいる。苦しいだろうに、どうして昔の話をしようだなんて言い出したんだろう。
…こんなの、鏡で自分の嫌な姿を確認するようなもの…)
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